小さく区切られて、
長いカーテンがかかった待機室は、
一見、「試着ルーム」か、
「蜂の巣」の様です。
「さえさんは、
今日は○番のお部屋です!」
出勤して、
いつもの通り、お店の方から
その日の部屋番を教えられて、
待機室に向かい、
厚い板を張ったテーブルに
ロッカーのキーを置いた時に、
目の前の鏡の隅に、
小さな黒い蜘蛛を見つけました。
「あ。
昨日の帰りに、
(待機室の)出入り口に居た子か……」
田舎育ちのわたしは、
虫を見て悲鳴をあげる、
女性らしい可愛らしさがないので……
寧ろ、
ぴぴぴぴっと細かく飛ぶように
動き回る蜘蛛に対して、
「『相部屋』か……。
ところで、こんな所に
『ご飯』はあるの?」
なんて、
にっこりしてしまいました。
「そう言えば、
(相部屋なのに)相手の名前を
知らないな」
メイクを整えた後で、
調べてみました。
「『アダンソンハエトリ』?
ええ?
めちゃめちゃ立派な名前ですやん」
(二百年ほど前に、
アダンソンさんって有名な博士が
アフリカで発見したからみたいです)
物心つく頃から知る、
小さな蜘蛛の印象が、
ちょっと変わりました(笑)
知ってるつもりで、
実は知らないことだらけ。
たくさんの男性と過ごしてても
案外、何も知らなかったり、
何度もベッドで戯れた
貴方の事も、
わたしはきっと、
知っているようで
知らない事だらけ。
「知らない」のは、
きっと「ドキドキ」が隠れて
居るんですよね。
コースから戻って、
帰り支度を終えて、
電気を消そうとした時、
小さなアダンジョンは、
ティッシュの黄色い箱の上で
まだずっと何かを探していました。
本日の合言葉
「待機室」