「ふう……」
自室の小さなこたつに
すっぽりと入り込んで、
通称「ダメになるクッション」に
頭から肩まで埋もれたまんま、
長男太郎ちんは、
溜め息をつきました。
「どした？太郎ちん」
「『１４日、空いてる？』って、
女の子らから、
めっちゃラインが来るねん」
……何とも贅沢な溜め息では
ございますが、
当の本人は、
「彼女とか、今は要らんわ」
「野郎共とつるんでる方が、
おもろいねんな」
という、
「草食系男子」でありまして、
「で、何て返事してるの？」
と、
わたしが尋ねましたら、
「『野暮用で無理』って答えてる。
女の子やけど、
友だちは友だちやん？
友だちでしかないやん？
バレンタインの前の日とか、
１５日以降に、
『チョコあげるー』って言われても
『ありがとう』で済むけどよ？
友だちの関係が崩れるのも
面倒くさいしな」
薄い唇を少し尖らせて、
太郎ちんは細い弓形の眉を
八の字に下げました。
「ふううううううううう」
リビングの大きなこたつに
正座の脚をつっこんだ、
次男の次郎ちんが、
唸り声に似た、
長い溜め息をつきました。
「どした？次郎ちん」
「母者……
おっきいのと
そうでないの、
どっちが好き？
やっぱ、おっきいの？」
「……は！？」
「バレンタインやろ？
今年は、兄ちゃんに何を作ろうかと
思ってな……。
去年は、ガトーショコラやん？
今年は、どうしよかなって
悩んでんねん。
ゲームしながら食べるとしたら、
クッキーとかの方が、
つまみやすいかな？」
太く凛々しい真っ直ぐな眉を
これまた八の字にして、
神より崇める兄への捧げ物に
苦悩する次郎ちんが、
そこに居りました。
……ほ、ほお。
なるほどなるほど。
「小さいのは、
口に入れやすいもんな？」
「ま……まあ、確かに」
「おっきいのは、
喉につっかえそうやん？」
「ま……まあ、
そういうのは、無きにしも非ず」
自分の眉が、
徐々に情けない
八の字に下がっていくのを
感じつつ、
「おっきくとも、
そうでなくとも、
大事なのは、
そこにある想いです」
何だか、よく分からない言葉を
もっともらしく返してしまった、
さえなのでした。
ニホンゴ ヤヤコシイ デス。