深夜のスーパーで。
母のために鮮魚コーナーを
うろちょろしていた時に
それを見つけました。
半額シールの貼られた
パックの握り寿司。
よくよく考えたら、
晩御飯を食べ損ねている自分に
気がついて、
「半額かぁ……いいや、
家に帰って、
何か簡単なものを作ろっ」
一旦、スルーして、
「……あ」
引き戻して、
パックを買い物かごに入れました。
「おかん、
自分のもんも、
たまにはええのん買いや?
歳も歳やねんから、
ちゃんとそこそこのもんで
お洒落せんと、
老け込むでぇ」
「おかん。
おかず、
そんなんじゃ足りんやろ。
ほら、もっと食えよ。
痩せたって、
小学校の体育倉庫の
ドッジボールの玉みたいに
丸こいまんま、
くてっとするだけやぞ」
ガレージの閉まる音がして、
暫くすると、
勝手口のドアから
長男太郎ちんが
「たーだーいーまー」
と、間延びした声で言いました。
バイト先のエプロンの入った
小ぶりなトートバックを
椅子にひょいと引っ掛けて、
「ただいま、
つまみちゃーん。
いい子にしてまちたかー?」
くるくると回りながら、
嬉しそうに耳を下げて
尻尾を振る愛犬を抱き締める息子に
「おかえり。
お疲れさま。
見て見て!
母、お寿司食べてんねん」
半額シールのついた蓋を
はがした、
お寿司を見せました。
「おおっ!
ええやーーん?」
…………え?
よく笑う太郎ちんです。
でもそれは……
それまで見たことのない
息子の笑顔でしたね。
貴方が幸せを願う人もまた、
貴方の幸せを願っているのでは
ないでしょうか?