「小さくて、ごめんな」
うな垂れる彼に、
わたしは精一杯の笑顔を見せて、
「そんなこと……」
と言いました。
こればっかりは、
努力でどうにかなるものでもない。
「小さい方が、好きだよ?」
とも言えないのが辛いけど。
「ほんま……おっきいのんに
憧れるわ」
苦笑いする彼。
「大丈夫、大丈夫」
「ほんま?
わ。ヌルヌルや。
頭は、割りと大きいねんけど
それだけじゃあかんやろ?」
「あはは……頭は関係ないね。
まぁ……任せて」
愛する長男太郎ちんが、
釣りに行った日のこと。
シンデレラが王子様と踊って、
帰宅して、
お風呂に入って、
歯も磨いて、
お布団に入ったくらいの時刻に、
「おかん。
一緒におる友達、
釣り立ての魚とか、
食ったことないらしいねん。
食わしてやりたい。
ちっこいねんけど、
さばけるかな?」
太郎ちんから、
ラインが届きました。
は?
「さばけるかな?」?
「さばけるかな?」ですと?
「可愛い息子の釣って来た魚。
ちりめんじゃこでも
さばいて見せますわ」
そう返信致しました。
が。
ちっこ……。
細っ……。
めっちゃ生きてるし。
しかしながら、
「任せて」と言ったからには、
やむを得ず。
アナゴには、
何度か、
歯のない口で
ぱかぱか指を噛まれたりしながら、
ごめんねと目打ちをし。
何とか調理致しました。
更に夜は更けて、
朝刊を配る配達員のバイクに
近所のわんこが吠える声が
聞こえました。
僅かな明かりの中で、
目覚まし時計をいじくって
居りましたら、
コンコンと扉がノックされ、
にゅうっと
顔を出した太郎ちんが、
「さすがおかん。
上手かったわ。
友達も感動してたで。
ありがとう。おかん」
柔らかい口調で、
静かに言いました。
乏しい明かりの中に
息子のにっと笑った口元が
ぼんやりと見えました。
え?
さすがおかん?
さすがおかん?
「良かったね。
いつでも言うてくれたらいいよ」
わたしは、
「おやすみぃ」と手を振る息子が
扉の向こうに消えるのを
見届けてから、
にこりと微笑んで
もうひとつ明かりを消しました。
幸せな一日の締め括りが、
潜り込んだ布団の中に
満ちているように思えて。
「良い夢が見れそう」
ぎゅっと瞼を閉じました。
その2日後に、
同じ大きさのアナゴが
また2匹、
我が家の台所に現れるとは、
その時は露知らず。